VS虫
あれは、姪の幼稚園の運動会を観に行ったとき。
休憩時間が終わろうとしていて、自分の座っている場所に帰ろうとした時に、とんとん…。
小さな手が私の手に触れた。
お兄ちゃんかお姉ちゃんをみにきたであろうちっちゃなぼくちゃんが不安そうに私をみた。
迷子かしら…。
彼が指さした先に、私が見たもの。
それは巨大すぎる芋虫。
モンシロの幼虫の青虫ではない。
金網の向こうのキャベツ畑からやってきたのだろうか。
千葉から埼玉まで届くほどの悲鳴を飲み込んだ自分は孤高のヒーローに思えた。
数多いる大人の中でなぜ私を選んだんだ君は。
私が怖気づいてはいけない。
彼はほかの誰でもない、私に全幅の信頼をよせているのだ。
私の後ろに隠れるようにしている。
そこに落ちていた10cmほどの、でもYの字になった枝…というにはたよりないが、それを拾った。
体中の水分が冷や汗となって排出され、青空も灰色にみえた。
この枝で畑まで転がすのだ。
50cmほどか。
自分至上最大の芋虫。
手にしているエクスカリバー10cmより大きい、太い。
かつてないほど敵に近づき、ぼくちゃんをみて頷く。
ぽきっ
敵の手前においた枝があえなく折れて5cmになる。
力をいれすぎたのか。
「おねえさん、それじゃちょっと…。」
お嫁ちゃんのお母様の声がきこえる。
靴を片方脱いで、靴底でころがしていこうか。
などと考えていたら、どなたか園児のパパらしき方がどからともなく現れ、ふわっと芋虫を畑の方に蹴とばした。
ナイス フローターシュート…。
倒れるかと思ったが、僕ちゃんの姿はもうなかった。
あれは大きかったよね。
母が今でも語り継ぐ、巨大芋虫との格闘、、いや結局何もしなかったのだが。
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